第30回「REACH規則」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

    EUの化学物質に関する法律の中に「RoHS指令」と「REACH規則」があります。前29回では電気・電子機器対象のRoHS指令を中心に報告しましたので、今回は全ての製品を対象とするREACH規則について報告致します。

    2007年6月1日に発効したREACH規則は、「人の健康と環境の保護」や「EU化学産業の競争力の維持向上」を目的として、あらゆる製品を構成する化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する制度で、発効後10年以上が経過しました。

    REACH規則が求める責務を果たさなければ、EUでの製品の製造、上市又は使用することができません。この法律はEU域内の製造者や輸入事業者が直接の対象となりますが、EUへ製品を輸出する企業にとっても遵守すべき極めて関連深い法律です。

    Reach規則画像
    「RoHS指令」はEU加盟国で国内法を定めて国ごとに運用する。

    「REACH規則」はEU加盟国にそのまま適用される。

    2.「REACH規則」の概要

    REACH規則では全ての化学物質を「物質」、「調剤」、「成形品」に分類しています。
    ここでは「物質」、「調剤」グループと「成形品」グループに分けて纏めてみました。

      物質、調剤 成形品
    定 義 1)物質・・・製造プロセスを経て得られる化学物質
    有機・無機化合物、金属
    2)調剤・・・2種以上の化学物質からなる混合物、溶液
    塗料の様な調剤や合金の構成成分
    3)ポリマー・・・1種以上のモノマーが結合したポリマーを構成する2wt%以上のモノマー、又はその他の化学物質
    成形品
    ・生産時に付与する特定な形状、表面又はデザインが、大きく機能を決める物体。
    家庭や産業界などの使用製品の大部分は成形品。
    家具、衣服、自動車、玩具、 台所用品、タイヤ、香りつ き消しゴム、バッテリーな ど。
    登 録 年間1トン以上製造又は輸入する化学物質を登録する
    1)物質・・・化学物質の量を調査。
    2)調剤・・・調剤を構成する化学物質ごとに調査。
    3)ポリマー・・・ポリマー中に結合した状態で2wt%以上含まれる構成モノマー、又はその他の化学物質を調査。
    ※10トン以上は化学品安全性報告書(CSR)の提出義務
    1)成形品中の化学物質が意図的な放出で機能を維持する場合。
    2)上記物質の総量が年間1トン以上の場合。 但し、その用途を含めその化学物質が既に登録されている場合、登録は不要。
    認可申請の義務 付属書XIVに記載された「認可対象物質」をEUで製造又は輸入する事業者、あるいは認可条件以外で使用する川下企業は、その取扱量が1トン未満であっても、その特定した用途を欧州化学品庁に提出して認可を得る必要がある。  
    届出の義務   1)成形品中に「認可対象候補物質」が0.1wt%以上含有し、かつ、その化学物質の総量が年間1トン以上の場合、欧州化学品庁に定められた情報を届出る必要がある。
    2)ただし、その化学物質がその用途のため既に登録されている場合には届出の必要はない。
    使用制限の義務 指定された制限条件内においてのみ製造、輸入あるいは使用が可能となる。これに該当する化学物質が「制限物質」です。
    1)制限物質・制限条件に該当するか確認。
      →REACH規則付属書XVIIの制限物質、制限条件を確認する。
    2)EU域内への輸出の有無の確認
      →製品が制限条件を超える場合、EU域内への輸出に加え、当該製品を使用して製造される顧客の製品もEUには輸出できない。
      →制限条件を超える場合、代替物質を導入する。代替物質がなけ ればEU域内には販売できない。
    情報伝達の義務 危険な物質・調剤、PBT(難分解性、生物蓄積性、毒性物質)、vPvB(高難分解性、高生物蓄積性物質) 、「認可対象候補物質」をEUで製造又は輸入する事業者は、「安全性データシート(SDS)」を川下企業に提供する義務がある。
    SDSの提供義務がない化学物質についても、「登録番号など関連する情報」などを提供する必要がある。
    認可対象候補物質」を0.1wt%以上含有する成形品をEUで製造又は輸入する事業者は、それを使用する利用者に対して、当該製品を安全に使用できる条件を示した情報を伝達する必要がある。
    制限物質 人の健康や環境にとって受け入れられないリスクのある化学物質について、EU全域で使用の制限条件を付けたり、必要あれば禁止したりできる化学物質。「制限物質」は付属書XVIIに記載された化学物質で、2016年6月時点、100物質が記載されている。
    認可対象物質 人の健康や環境に与える影響が非常に深刻で、その影響が不可逆的である高い懸念を有する有害な化学物質。その製造や使用のリスクを評価して認可すべきかの可否を決定できる。
    認可対象物質」は付属書XIVに記載された化学物質で43物質が記載
    認可対象候補物質(SVHC) 高懸念性物質とも訳され、発がん性、変異原性、難分解性、毒性、生物蓄積性、生殖毒性などのある化学物質。2年ごとに更新される「認可対象物質」のリストに優先して記載される化学物質で、2017年6月時点、181物質が記載されている。

     

    3. おわりに

    発効後10年以上も経過していることから、EU域内に製品を輸出している企業はREACH規則のシステムに従い、問題なく業務を遂行できていると思います。

    化学物質の分析技術や安全性評価技術の進歩により、リストアップされる化学物質が 増えております。2年ごとに見直しが予定される「認可対象物質」は、将来的には1,500 物質まで記載されるとのことです。EU域内への輸出企業は「制限物質」や「認可対象候補物質」についても、見落としがないようにその動向を把握しておく必要があります。

     

     

    (参考資料)
    ・REACH規則に関する解説書(2008年5月、経済産業省)

     

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