1.はじめに
今回は、リスクベース思考(リスクに基づく考え方)を定着させる方法と経営におけるマネジメントレビューの位置づけについて解説します。
2.「リスクベース思考」が定着しない本当の理由は何か
(1)背景
ISO 9001は、リスクベース思考が中核概念として位置づけられています。しかし多くの組織において、リスクベース思考は「リスク一覧表を作ること」、「リスクアセスメント様式を埋めること」と考えられており、日常の意思決定や業務運営において十分に根付いていないのが実情です。その背景には、リスクという言葉が「危険」「問題」「悪いこと」というネガティブなものとして理解されがちな点です。また、規格導入時に形式的な手法(リスクマトリクス、点数評価など)だけが先行し、「なぜそれを考えるのか」、「何に使うのか」という目的が共有されていないことも大きな要因の一つです。その結果、リスクは文書に表現されているだけで、現場では従来通りの経験則や慣習に基づいた判断が続けられてしまうことが考えられます。
(2) 基本的な考え方
ISO 9001では、リスクに基づく考え方を次のように記載しています(0.3.3参照)。
| リスクに基づく考え方は、有効な品質マネジメントシステムを達成するために必須である。リスクに基づく考え方の概念は、例えば、起こり得る不適合を除去するための予防処置を実施する、発生したあらゆる不適合を分析する、及び不適合の影響に対して適切な、再発防止のための取組みを行うということを含めて、この規格の旧版に含まれていた。 |
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リスクベース思考の本質は、特別な分析活動ではなく、「結果に影響を与える不確かさを意識しながら意思決定する姿勢」にあります。重要なのは、すべてのリスクを洗い出すことでも、精緻な評価を行うことでもないです。
「この判断は、どのような前提条件に依存しているのか」、「うまくいかなかった場合、どの部分がボトルネックになるのか」、「逆に、うまく活かせば成果を拡大できる機会は何か」といった問いを、日常的に投げかけることです。
以上のことから、リスクベース思考とは、マネジメントを“過去の延長”ではなく、“不確実性を含んだ未来志向”に切り替えるための思考の枠組みと考える必要があります。
(3)対応方法
リスクベース思考を定着させるためには、リスクを独立した活動として扱うのではなく、方針管理や日常管理と一体化させることが重要です。例えば、プロセスのアウトプットが不安定な場合、「手順が守られているか」ではなく、「このプロセスのリスクは何で、どの条件が変わると結果が崩れるのか」という視点で議論します。また、マネジメントレビューや部門会議において、「未然に防げたこと」、「想定外だったこと」を振り返ることで、リスクの感度を高めることも有効です。様式や点数付けにこだわるよりも、「意思決定の質が上がっているか」を評価基準とすることで、リスクベース思考は徐々に組織文化として根付いていきます。
すなわち、リスクベース思考が定着していない組織では「リスクは書くもの」で、定着している組織では「リスクは考えるもの、決めるためのもの」と考えると良いでしょう。
3.マネジメントレビューは経営に使われているか
(1) 背景
マネジメントレビューは、トップマネジメントがマネジメントシステムの適切性・妥当性・有効性を評価する場として規格で要求されています。しかし実態としては、「年に一度の報告会」、「各部門の実績を順番に読み上げる場」、「審査のための儀式」と化しているケースが少なくないです。経営層にとっては新しい情報が少なく、現場にとっては“無難に終わらせる行事”となり、結果として経営判断にはほとんど使われていません。この背景には、マネジメントレビューの位置づけが「規格要求への対応」に留まり、「経営活動のレビュー」として再定義されていないことがあり得ます。
(2) 基本的な考え方
ISO 9001の9.3.1一般では、次の事項が要求されています。
| トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効で更に組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にするために、あらかじめ定めた間隔で、品質マネジメン トシステムをレビューしなければならない。 |
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組織の品質マネジメントシステムとは、一般的に品質マニュアルに規定された品質保証システムを指していますので、これは事業計画の一環として運営管理されています。このため、全体的な事業活動のレビュー時にQMSに関するレビューも行う必要があります。ここでレビューとは、単なる「確認」や「報告」ではなく、判断し、方向性を決めるための行為(事実の把握、判断、評価)を行うことです。
マネジメントレビューの本質は、「トップマネジメントが、事実とデータに基づいて自らの意思決定を点検し、次の打ち手を決める場」です。ここで問われるべきは、「計画通りやったか」ではなく、「やった結果、組織の能力は高まっているか」、「戦略や前提条件は今も妥当か」です。したがって、報告項目の網羅性よりも、経営判断に直結する論点が設定されているかが重要です。このため、マネジメントレビューは、過去を総括する場ではなく、未来に向けた経営の再設計の場になります。
(3) 対応方法
経営に使われるマネジメントレビューにするためには、まず議題を「報告型」から「問い型」に転換する必要があります。例えば、「品質目標は達成したか」ではなく、「この結果は市場や組織の変化を踏まえて十分か」、「次の一年で最も強化すべきプロセスは何か」といった問いを設定します。また、リスクや機会、プロセスの能力といった情報を、経営判断に使える形で要約し、意思決定につなげることが重要です。レビューの成果として、「何をやめるか」、「何に資源を集中するか」が明確になったとき、マネジメントレビューは初めて経営の道具として機能することになります。