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第28回「海のプラスチックごみ」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

    白砂青松」日本の美しい海岸を表現した言葉ですね。ところが、最近の海岸はプラスチック類を中心とした夥しいごみが漂着し、がっかりした経験を持たれた方も多いのではと思います。環境省は、海岸に漂着するプラスチックごみ削減対策の予算として、 2017年度の400百万円から2018年度は3,850百万円へ大幅増を計上しております。

    特に、海の生態系に悪影響を及ぼす「マイクロプラスチック」の削減に取り組むとしております。「マイクロプラスチック」とは粒径が5舒焚爾離廛薀好船奪を言い、1侈にでは目に見えず、しかも分解されず海中を漂う物質を言います。

    マイクロプラスチック

    日常生活などで発生するレジ袋等の廃プラスチックは適切に処理されれば問題ありませんが、適正な処理ができなければ「海は捨てられたプラスチックの袋小路」と言われるように行きつくところは海です。プラスチックごみの海洋汚染について国連でも条約化 の動きがあります。今回は「マイクロプラスチック」について纏めてみました。

     

    2.海への排出量

     2010年の環境省による推計ですが、各国が海洋に流出した1年間のプラスチックごみの量は表のようになっています。毎年800万トン以上のプラスチックごみが海に流出しており、なかでも東・東南アジアが圧倒的に多いことがわかります。

     日本には海岸漂着物地域対策推進事業の結果に基づいて算出した漂着ごみの推計量は31〜58万トンといわれ、そのうち回収できたごみの量は全国で約4.5万トンとなっています。東・東南アジアから 流出したプラスチックごみは海流の関係で日本の沿岸、特に西日本に漂着しやすい地理的な関係にあります。

    図.各国の海へのプラスチック流出量

     
    順位 国 名 流出量
    1位 中国 353万トン
    2位 インドネシア 129万トン
    3位 フィリピン 75万トン
    4位 ベトナム 73万トン
    5位 スリランカ 64万トン
    20位 アメリカ 11万トン
    30位 日本 6万トン

     

    3.マイクロプラスチックの発生メカニズム

     1)大きなプラスチックは海面に浮かびやすく、そのまま海岸に漂着します。
     2)漂着したプラスチックは太陽光を受けたり、波と砂や岩礁などに揉まれたりして小さく砕けて行きます。
     3)小さく砕けたプラスチックは海水との比重差が少なくなるため、海の中を漂って沖合に広がって行くことになります。すなわち、海岸の近くより、沖のほうがマイクロプラスチックは多く存在していることになります

     2014年、環境省は東京海洋大学や九州大学の協力で、日本周辺のマイクロプラスチックの濃度を調査しております。
     その結果、海岸から数百劼硫合では、海水1トン当たり平均3個と言う調査結果となりました。この値は、全世界平均の30倍も存在していることが分かりました。一方、瀬戸内海の海岸近くでは平均0.4個という結果でした。
     日本周辺のマイクロプラスチックの濃度が極端に高いのは、廃棄物管理のインフラ整備がされていないアジアの各国が多くのごみを海に流出し、それが日本近海に流れて来ているとみております。
    環境省は、「日本周辺海域はマイクロプラスチックのホットスポット」と表現しております。

     

    4.マイクロプラスチックの生態系への影響

     海中に漂うマイクロプラスチックが海の生物にどのような影響を与えているかを纏めてみました。

     1)海洋生物にとっては全く栄養価がないマイクロプラスチックを食べることで発育不足となり、生態系のバランスが崩れる心配があります。

     2)マイクロプラスチックを食べた小さな海洋生物を大きな魚が食べることでマイクロプラスチック汚染が広がります。

     3)マイクロプラスチックは油や有機物と親和性があるため、海中のダイオキシンやPCBなどの有害化合物 を付着し易く、極めて高濃度に濃縮されていきます。実際に、魚や貝、水鳥などの体内からマイクロプラスチックに濃縮された有害化合物が見つかっており、食物連鎖を通じて生態系を壊し、人の健康を脅かす恐れがあります。

    マイクロプラスチック

     

    5.マイクロビーズ

     「マイクロビーズ」とは意図的に製造された粒径が5侈にのポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のマイクロプラスチックです。マイクロビーズは表面についた汚れを掻き取って綺麗にすることから、洗顔料や化粧品、歯磨き粉等に使われております。使用後のマイクロビーズは排水処理で処理できれば問題ありませんが、処理できなければそのまま海に流出し、マイクロプラスチックと同様に働きます。

     アメリカでは2015年、「マイクロビーズ除去海域法」という規制法が成立し、ヨーロッパの主要国やカナダもマイクロビーズの規制に踏み切っております。

     日本では2016年、業界団体がマイクロビーズの使用中止を呼び掛けた自主規制がありますが法制化までには至っておりません。

     

    6.世界の動向

     2015年のドイツのG7ではプラスチックごみの問題を「世界的な課題」と警告し、海のプラスチックごみの量はこのままだと2050年までに魚の重量を超える、との報告書を出しました。2016年の日本のG7でも海洋ごみへの対応が再確認されました。

     2017年のイタリアG7では「地球規模の脅威」とうったえ、国際的対応を急ぐように求めております。このような世界の主要7カ国の決議に基づいて国連でプラスチックごみの規制に向けた会議が開催されており、国際条約化は近いと思います。

     レジ袋の規制は欧州で進んでおり、EUは2014年、加盟国に削減案策定を義務付け、「1人40枚/年」に減らす目標を掲げました。フランスでは2016年からレジ袋の提供が禁じられ、アジアやアフリカでも同様の対応に踏み切った国があります。

     

    7.おわりに

     (1)「海は捨てられたプラスチックの袋小路」と言われるように、適正に処理できなければ行きつく先は海です。破砕されて微粒子になった「マイクロプラスチック」が魚介類などの海洋生物の生存を脅かし、悪影響を与えております。このままでは日本近海の魚介類等で生計を営む水産業の方々に極めて深刻な問題につながる状況になりそうです。

     (2)日本はレジ袋を「約1人300枚/年」使うとのことですが、レジ袋の有料化等でスーパー等ではトートバックやレジ袋の再利用が目立ち、意識が変わってきました。「日本周辺海域はマイクロプラスチックのホットスポット」を解消するには、日本周辺の関係各国との密接な関連や規制の取り決めが絶対に必要です。是非とも日本政府が主導権を発揮して海のプラスチックごみの問題を解決してほしいものです。

     

     

    (参考資料)
    ・海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組(環境省 2016年12月)

     

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