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第20回 「パリ協定に対する日本の地球温暖化防止の取り組み」

    環境ショートレポート

    1.はじめに

    前回は2020年以降の地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」を報告しました。今回は、パリ協定を受けて日本が国連に提出した「日本の約束草案」(2030及び2050年の削減目標)の内容を中心に纏めてみました。

    2030年の場合には、CO2を排出しない原子力発電の稼働状況によって目標が変わる可能性があります。2050年には、石油・石炭などの化石原料を基盤とする炭素化社会から革新技術の実現によって温室効果ガス(GHG)を大幅に削減する低炭素化社会に移行する必要があります。なお、GHGにはCO2以外にハイドロフルオロカーボン類等がありますが、排出量の約95%を占めるCO2を中心に纏めて見ました。

     

    2.日本の目標

    日本が国連に提出した「日本の約束草案」の目標を表及び図に示します。

    表‐1 日本のGHG削減目標

    年 度 2013(基準年) 2030 2050
    削減率(%) 26 80

    日本のGHG排出量

    2050年の目標は、先進各国と足並みを揃えた削減目標になっております。今世紀後半にはGHG排出量をゼロにするという「パリ協定」の目標達成には80%程度の削減が必須、ということだと思います。

     

    3.2030年の削減目標

    約束草案の目標達成のため、2030年の分野別目標や削減率を表に示します。

    表‐2 CO2排出量の現状と目標(単位:百万トン)

    分 野 2005年 2013年 2030年(削減率)
    産 業(工場等) 457 429  401   (6.5%)
    その他産業(商業・サービス・オフィス・ビル等) 239 279  168   (39.8%)
    家 庭 180 201  122   (39.3%)
    運 輸(自動車・トラック・鉄道等) 240 225  163   (27.6%)
    エネルギー転換(発電所・ガス製造所等) 104 101  73   (27.7%)

    削減率は2013年を基準

    一律に削減するのではなく、省エネが遅れている家庭やその他産業などは高い削減率となっております。
    2016年、経済産業省は省エネや再生エネルギー拡大に向けて「エネルギー革新戦略」を策定しており、「徹底した省エネ」などの4本柱を重点課題に設定しております。
    表−3に各分野の代表的省エネ対策を例示します。相対的に省エネが遅れている家庭部門、その他産業部門及び中小企業などに重点が置かれた対策です。

    表‐3 各分野に求められる主要な対策・施策

    分 野 対策・施策項目 目 標(2030年)
    産 業 ・低炭素化社会実行計画の推進
    家 庭 ・既存住宅の省エネリフォーム促進
    ・新築住宅ゼロ・エネルギー・ハウス化
    ・家庭用燃料電池の拡大
    ・住宅エネルギー管理システムの普及
    ・LEDなど高効率照明の導入

    ・新築戸数の半数以上(注)
    ・530万台
    ・普及完了
    ・普及完了
    その他産業 ・既存建築物の省エネリフォーム促進
    ・新築建築物ゼロ・エネルギー・ビル化
    ・LEDなど高効率照明の導入
    ・ビルエネルギー管理システムの導入

    ・新築建築物に導入(注)
    ・100%完了
    ・半数以上の建築物に導入
    中小企業 ・設備の省エネ投資支援
    ・省エネ相談窓口の全国展開

    ・2017年
    運 輸 ・燃費改善・次世代自動車の普及
    ・高度道路システム(ITS)の推進
    ・次世代自動車が50%以上
    エネルギー転換 ・再生エネの最大限の導入
    ・原発の活用

    (注)2020年目標        経済産業省 総合資源エネルギー調査会資料(2015年7月)

    2030年の目標達成には経済産業省の「エネルギー革新戦略」の達成に加え、CO2を排出しない電源の割合を増やすことが必要です。政府は約束草案の実現のため2030年の総発電量と電源構成を表‐4のように想定しております。

    表‐4 電源の発電量と構成の推移     単位:億KWh

      再生エネ 原子力 石 油 LNG 石 炭 総 計
    CO2を排出しない電源
    CO2を排出する電源
    2013年 1000 (11) 100 (1) 1400 (15) 4100 (43) 2800 (30) 9400
    2030年 2500 (23) 2200 (20) 300 (3) 2900 (27) 2800 (26) 10800

    ・再生エネの内訳:水力、太陽光、風力、地熱、バイオマス

    2030年での問題は原発の稼働状況です。原発の運用は原則40年に規制されており、現在の原発を40年稼働出来たとしても、2030年の発電量は最大15%と言われております。
    原発再稼働を巡る国民感情に加え厳格な新規制基準を考えると、20%は非常に厳しい目標と思います。ここは2050年の目標に向けて前進するためにも再生エネルギーの比率を増やすべきだと考えます。日本の国土面積は小さいですが、地熱や海洋面積、森林率などは世界でもトップクラスの自然エネルギー大国です。これら自然エネルギーを先進技術の活用で再生エネルギーに転換できる可能性は十分あると言えます。

     

    4.2050年の革新技術

    2050年は、2013年に対し80%削減が目標です。革新技術の実現によってエネルギーや資源を生み出す異次元の低炭素化社会が出現していると想像できます。「水素」も政府が推進する資源のひとつです。
    2050年にはGHG排出削減につながる革新技術が実用化されるのか纏めてみました。

    表‐5 2050年に実用化が予想される革新技術

    革新技術 技術項目 目標、応用例など
    水素技術 ・水素発電
    ・貯蔵、輸送、インフラ技術

    ・燃料電池、燃料電池車にも活用
    次世代発電 ・次世代太陽光発電
    ・次世代地熱発電
    ・洋上、潮力発電
    ・現行の2倍以上の発電効率
    ・マグマ熱又はマグマ周辺の地熱
    次世代蓄電池 ・リチウムイオン電池の代替技術 ・安全性向上、高蓄電量化
    CO2回収・貯留(CCS) ・CO2回収・貯留技術 ・バイオマス発電、火力発電、製鉄や化学工業に設置
    CO2の資源化(CCU) ・藻類の光合成活用技術(CO2から有用化合物合成) ・地方自治体の廃棄物処理施設に発電設備とCCU設置の動き。
    超電導送電 ・送電時の電気ロス技術 ・日本が先行しているが、世界で開発が激化
    宇宙太陽光発電 ・宇宙空間での太陽光発電 ・天候に左右されず24時間発電。マイクロ波に変えて地球に送信し、地球で電気に変換。宇宙空間のため設置費用や維持が問題
    人工光合成 ・人工的な光合成技術 ・太陽光を利用しCO2と水から酸素と有用物質に変換。日本が先行しているが、世界で開発が激化

     

      GHG排出削減につながる実用化が予想される革新技術を例示しましたが、革新技術の組合せで新しい応用技術や製品に展開されていくと思います。

     

    5.おわりに

    日本の約束草案、閣議決定された地球温暖化対策計画などに基づいてGHG排出量削減計画を纏めてみました。2030年の目標は現在の延長線と言えますが、2050年には全く異なる資源やインフラを活用した社会になっていることが想像されます。


    (参考資料)
    1)日本の約束草案(平成27年7月17日)
    2)閣議決定地球温暖化対策計画(平成28年5月13日)
    3)環境省:2050年を見据えたGHGの大幅削減に向けて(平成27年10月)
    4)経済産業省:エネルギー革新戦略(2016年4月)


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